これは、まちトドンAdvent Calender2024の12月15日の記事です。
夜な夜なメルカリで古い服を眺めるのが大好きな筆者。いつの間にか手元には、Midasの服がいくつも集まってきていました。一体Midasとはどんなブランドだったのか。ちょっと調べてみたら結構良い分量になりました。(本当は写真や雑誌のページの画像を追加したいのですがとてもそんな余裕と元気がないので当初公開はこれで勘弁……)
Midasの概要
有限会社グラブ(grab ltd.)が運営していたブランドで、元々はお兄系、2012年ごろ以降はビジュアル系の服を主に扱っていました。いつから販売を始めたのかは定かではありませんが、法人の設立は1997年4月で、公式ウェブサイトが確認できる最も古い日付は2005年12月。ブランド自体は2016年秋ごろに事実上消滅しました。
お兄系とは
お兄系とはストリートファッションの一分野で、一昔前の男性ホストを思い浮かべてもらえれば……ちょっと違うのですがそんなに遠くない感じです。より詳細には、渋谷のギャル男と新宿のホストファッションが融合したようなものとも説明される、モテやカッコよさを強調したスタイルです。このスタイルは2004年ごろに誕生したとされ、長く「盛った」茶髪、「ゴージャス」なシルバーアクセ、ブーツカットの「ハード」なダメージデニムがド定番アイテムでした。
2000年代後半のMidasは、お兄系ファッションを扱う雑誌『メンズエッグ』や『メンズナックル』に広告を頻繁に出していました。元々有限会社グラブは卸売の方が強い会社だったようですが、2016年初頭時点では東京渋谷の109MEN’Sを筆頭に、仙台フォーラス、横浜ビブレ、名古屋パルコ、サンシャイン栄、心斎橋ビッグステップ、天神ビブレと日本各地のファッションビルに直営店舗を置いていました。
東日本大震災前後の変化
東日本大震災以前から、少しずつ世間の変化はありました。第26回2009年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテンには「草食男子」がランクイン。一方、お兄系とはモテるために盛って着飾るという価値観であり、ワルであることがカッコ良く、性に貪欲な生き様なのです。草食男子と対照的なのは言うまでもありません。
決定的に大きな潮目の変化は、2011年の東日本大震災でしょう。この日を境に、街にはブルージーンズやスニーカーにリュックといった超定番のスタイルが増加。機能性ファッションや、売ることを前提に買う消費行動、「ノームコア」が世間を席巻していきます。この変化は劇的でした。2008年1月の通算100号では322ページという大ボリュームで発行されたメンズエッグは、わずか6年足らずを経た2013年11月号をもって休刊してしまいました。メンズナックルもファッション雑誌からホスト業界誌へと性格を変えた末、2022年に休刊。今はもう、どちらの雑誌もありません。
ビジュアル系へ
2000年代はお兄系のストリートファッションだったMidasは、2012年になるとビジュアル系バンド「Sadie」などのミュージシャンとコラボをするなど、いつの間にかビジュアル系と呼んでも良さそうなラインナップになっていました。というか、(典型的な)お兄系ファッションは2011年ごろには、街から消滅していました。時期を同じくして、2012年ごろからは従来のブラックレターのロゴに加えて、比較的シンプルな印象のセリフ体のロゴも使う運用へと改めたと思われます。
2023年に発行された『イラストレーターのための現代ファッション大図鑑』では、ビジュアル系のブランドとして、CIVARIZE、h.NAOTO、SEXPOT ReVeNGe、イルイルイル、ACDCRAGなどと並んで紹介されています。新品が供給されなくなって7年も経って出版された本にブランドの名前を書かれたということは、Midasの目指す世界観は時代を超えるメッセージ性を持っていたし、中古品の流通に耐えうる服作りをしていたとも言えるでしょう。
とはいえ、シンプルな服が持て囃される時代にビジュアル系の服を着る人なんて、お兄系の時代よりさらに少数派。全国各地のファッションビルに店舗を置けるほどの需要は、いつの間にか蒸発してしまったのです。同時代をなんとか生き抜いて2024年の今でも(数は少なくはありますが)新作を出しているCIVARIZEと違い、有限会社グラブはMidas以外に有力なブランドを多く抱えていなかったのも悔やまれます。
ブランドの終焉と現在
当時のMidasのツイッターアカウントによると、2016年に入ると渋谷区千駄ケ谷の本社でファミリーセールを断続的に開催するようになります。在庫過多になってのでしょうか。全国各地の店舗も同年夏から秋にかけて閉店。ブランドは事実上、終了します。
時代が下り、新型コロナウイルスを経験した世界。ファッションとは本当にワガママなもので、東日本大震災後のノームコアのようなシンプルなスタイルに、人々はちょっと飽きていました。そこで脚光を浴びるようになったのが、平成のギャル文化に代表されるような底抜けに明るい「Y2K」です。
Midasの服も、時代的にも見た目もY2Kの範囲には含まれます。Y2Kに加えてArchive(中古品のカッコいい言い換え)とタグを付けられて、メルカリで結構いい値段で売られているのが、Midasの服の2024年の状況といえるでしょう。
参考文献
- 『イラストレーターのための現代ファッション大図鑑』(ともかわ、KADOKAWA、2023)
- 『ストリートファッション1980-2020』(ACROSS編集部、パルコ、2021)
- 「Z世代に浸透「Y2K」ファッションとは なぜ20年ぶりに復活したのか」 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00908/00001/
- 「2004年『メンズエッグ』から分析する「お兄系」の絶対条件と「センターGUY」の最期。」https://www.yamadakoji.com/entry/mensegg-2004-11
- メンズエッグ2008年1月号など
- メンズナックル各号
- エン転職 https://employment.en-japan.com/comp-35755/list/
- 転職会議 https://jobtalk.jp/companies/296255
- MIDASアメーバブログ
- MIDASツイッターアカウント
2024-12-15 公開